
南宋末期から元初期の禅僧、牧谿(生没年不詳)は、蜀(しょく)(四川省)の人。道釈(どうしゃく)人物や山水図など様々なジャンルを手がけ、日本の水墨画に大きな影響を与えた。牧谿の作品は様々な茶会記に記録され、茶の湯においても床の掛物として珍重されていたことがうかがえる。
本作は、深山で羅漢が瞑想する様が墨一色で描かれた牧谿の代表作。羅漢を包み込む空間は、地の絹を活かした墨の濃淡による暈(ぼかし)であらわされ、観る者に光や大気を感じさせる。静寂の中、羅漢が発する圧倒的な存在感をも見事に描き出した傑作である。